NEW HORIZONは、生徒が英語の学習を通して世界に目を向け、地球市民として視野を広げることを願って制作されています。このページは、教科書に掲載されている題材をより深く知るために 、世界で活躍する人物とその取り組みを紹介しています。このページを通して、生徒がより深く世界のことを学び、今後の生き方を考えるきっかけとなることを願っています。
※このページは配布して授業でお使いいただくことができます。
アフリカンプリントの魅力を日本へ
Nakamoto Chizu
主な活動地域:
ウガンダ(Uganda)
関連Unit:
Book 1 Unit 8 Think Globally, Act Locally/Book 3 Unit 2 How do you choose your clothes?/Book 3 Unit 6 What does it mean to be a global citizen?
静岡県生まれ。大学院卒業後、大手銀行で法人営業を経験。その後国際農業NGOに参画し、ウガンダに駐在する。その時に出会ったウガンダの女性たちと、日本に暮らす実母とともに、アフリカンプリントを使用したバッグや雑貨を扱うアパレルブランド「RICCI EVERYDAY」を創業。ウガンダの工房で現地の女性たちとともに商品をつくり、日本で販売している。このブランドは、現地の女性たちを豊かにするだけではない。カラフルで大胆なアフリカンプリントを使ったアイテムは、固定観念にとらわれず、「自分がありたい姿」をめざそうというメッセージを、日本の買い手にも届けている。
Nakamoto Chizu is the founder of a company, RICCI EVERYDAY. She makes bags with women in Uganda and sells them in Japan. They make the bags with colorful African fabrics. The women in Uganda get money from this work. Also, the colorful bags send an important message to people in Japan: “Don’t just follow others. Try to be yourself!”
1.バッグづくりを通してアフリカの貧困問題に取り組む
私は、株式会社RICCI EVERYDAYの代表取締役を務めています。RICCI EVERYDAYは、アフリカンプリントを使用したバッグや雑貨を扱うアパレルブランドです。ウガンダの工房で色あざやかなアフリカンプリントを生かした商品をつくり、日本を中心に販売しています。
私たちの会社の特徴は、ブランドのビジネスを通して、アフリカの貧困問題に取り組んでいることです。ウガンダの工房でバッグや雑貨をつくっているスタッフのほとんどが、現地のシングルマザーです。1人で子供を育てながら、安定した収入を得るのはとても難しく、食費や子供の教育費、医療費が払えずに社会から孤立してしまっている女性たち。そんな彼女たちを支援したい、一緒に仕事がしたい、と考えて会社を立ち上げました。
注:仲本さんのように、貧困や格差、環境問題など、社会全体の課題をビジネスで解決する人たちのことを社会起業家といいます。
2.困っている人の役に立ちたい
小学生のころの夢は医師でした。大人になった自分がアパレルブランドを経営しているなんて、想像もしていませんでした。医師になって「国境なき医師団」に入り、世界の紛争地で人々の命を救いたいと思っていました。高校生のころは、国連で働くことをめざしていました。授業で見た緒方貞子さんのドキュメンタリーがきっかけでした。どちらの道も選ぶことはありませんでしたが、常に心に抱いていたのは「人の命を救いたい」「困っている人の役に立ちたい」という思いでした。
大学卒業後、周りの友達が就職するなか、進路に悩んでいた私は大学院に進学しました。大学院では、アフリカのサブサハラで起きていた民族紛争を研究し、「困っている人の役に立ちたい」という思いは「アフリカの貧困をなくしたい」という思いにつながっていきました。また、大学院での学びや、NPOでの学生インターンを通して、困っている人の役に立つには、医師や国連の職員になること以外にもさまざまな手段があることが分かりました。そこでたどり着いたのが「ソーシャルビジネス」、社会の抱えている課題をビジネスで解決することだったのです。
注:緒方貞子 難民を支援する国連機関UNHCRの高等弁務官を10年間にわたって務め「命を救うこと」を最優先に難民支援の最前線に立ち続けた。
3.レールを外れる決意
大学院卒業後は、周りのアドバイスもあって、まずは社会が実際にどう動いているのかを知ろうと、大手の銀行に就職しました。銀行は、個人や企業から預かった大切なお金を扱う機関ですから、たくさんのルールがあり、それらに従うことを厳しく求められます。型にはまらない発想力や行動力よりも、「決められたことを着実に守る」ことが重視される仕事になかなかなじめず、失敗もたくさんしました。また、資金を増やすため、順調な企業にはお金を貸し、経営状態が苦しい企業には厳しく返済を迫る銀行の仕事が、「どうしたら貧困をなくせるか」と考え続けてきた自分の心に、ずっと引っかかっていました。
転機となったのは東日本大震災です。悲しいニュースを連日目の当たりにするなか、「やりたいことを先延ばしにするのはやめよう」と銀行を辞める決意を固めました。実は、周りの友達が就職するなか大学院へ進学したときも、せっかく入った大手の銀行を退職するときにも、「レールを外れること」への恐れはありました。それでも「選んだ道は、すべて正解にしていく」という気持ちでここまで来たように思います。
4.ウガンダでの生活
銀行を退職して転職した先は、アフリカで農業支援を行うNGO「笹川アフリカ協会」(現・ササカワ・アフリカ財団)です。ナイジェリア、マリ、ウガンダ、エチオピアを主に担当し、それぞれの国で農業指導スタッフを育成したり、村々での指導をサポートしたりするプロジェクトを担当しました。さまざまな国を訪れるなかで、いちばん居心地よく感じられた国がウガンダでした。過ごしやすい気候で、農作物がよくとれ、穏やかな人が多い国なんですよ。
気候や食べ物に恵まれた国ではありますが、深刻な問題も抱えています。長く植民地だったことで、自分たちの収入につながる「産業」が十分に育っておらず、ウガンダは世界で最も経済的に貧しい国の1つなのです。
NPOの学生インターン時代から温めてきた「アフリカの貧困を解決する事業を立ち上げる」という思いをウガンダで実現したいと考え、農業支援の仕事を通じて、ウガンダの貧困の実態や人々の暮らしを見つめ、起業のアイデアを考える日々を過ごしました。
5.大切にしていたこと
アフリカで事業を立ち上げるなら、職業訓練にかかわることがしたいと考えていました。人々に自分の仕事があって、社会から必要とされている実感があることが、ひいては社会の安定につながるという思いを持っていたからです。現地では、お金のために武装グループの民兵になる人も少なくありません。「自分の仕事がある」ということが踏みとどまる選択肢となり、紛争のエスカレートを防ぐことにつながるのではないかと思いました。ただ、職業訓練で技術を身に着けても仕事がなければ意味がありません。職業訓練と仕事をセットで提供したいと考えていました。
もう1つ大切にしたかったのは、「支援する側」と「支援される側」ではない、「対等な関係」を築けるビジネスにするということでした。「支援する側」に「される側」が依存するという構造では、いつまでも「貧困」という状態はなくならず、また急に支援が打ち切られることも考えられます。ちゃんと利益が出て、長く安定して雇用が維持できる、そんなビジネスを模索しました。
注:職業訓練 仕事に役に立つ技術を身に着ける訓練のこと。教育の機会を逃してしまった人々が将来の選択肢を広げられるように、職業訓練校が各地でひらかれている。
6.アフリカンプリントとの出会い
平日は農業支援の仕事をして、週末に起業のアイデア探しをする、という生活を続けていたある日、ふらりと足を踏み入れた布地屋さんで「アフリカンプリント」と呼ばれる布に出会いました。お店には、色鮮やかな布が床から天井までびっしりと積み重ねられていました。その大胆な色使いやユニークさに圧倒され、その中から宝探しのように、気になる布を引っ張り出して見せてもらいました。
アフリカでは、このようなお店で好みの布を買って仕立屋さんで服を作るのがふつうで、縫製の技術を持った人がたくさんいます。さらに調べてみると、日本にはアフリカンプリントを専門に扱っているブランドはほとんどありませんでした。アフリカンプリントで作った商品を日本で売れば、ウガンダの人たちに経済的自立を促すビジネスになるのではないか。そのように考え、RICCI EVERYDAYの事業をスタートさせることになりました。
7.自分らしさを見つける場所に
アフリカンプリントの大胆な色の組み合わせやユニークな柄は、「自分らしさ」を思い出させてくれると感じています。日本で働いていたころの私は、自分が好きかどうかではなく「誰かにとって好ましい」服装をしたり行動をとったりして、「こうあるべき」という呪いのようなものを自身にかけてしまっていました。それを続けているうちに、自分が本当に好きだと感じることやものを忘れていって、「自分自身はどこに行っちゃったんだろう」と感じました。個性にあふれたアフリカンプリントに囲まれ、その中から自分の好きな色や柄を選び出す作業は、「そうそう、自分はこういうのが好きだった!」と思わせてくれます。日本に出すアフリカンプリントのお店は、訪れたお客様が、自分らしさを見つけられる場所にしたいと思いました。お客様がお店を訪れたお客様が、悩みに悩んで好きな柄を選び、最後にすがすがしい、そして少し誇らしげな顔をして帰っていく瞬間は、いつも本当にうれしい気持ちになります。
8.多様性は「手間がかかる」もの
ウガンダの工房では、都市部に暮らすシングルマザーや紛争被害者といったさまざまな背景をもった仲間と働いています。日本にいるチームも、60代から20代の若者まで、さまざまな年代のメンバーで構成されています。「多様であること」は、「新しさ」や「面白さ」を伴ったアイデアや価値を生み出す鍵だと感じています。同じ価値観をもった人たちだけで何かを進める、判断していくあり方には限界があります。多様なメンバー同士で、互いに見えていないことを補い合う、そうしたことが大きな強みになっていると思います。
国籍も言語も年代も異なるメンバーとのコミュニケーションには、もちろん苦労することもたくさんあります。自分が当然の知識だと思って話すことも、相手には全然伝わっていなかったりして、2回、3回と何度も説明をしなければいけなかったり...。丁寧なコミュニケーションにはとても手間がかかります。似たような背景や考えをもつ人たちと仕事をするほうがずっと楽だと感じることもあります。それでも、その手間を惜しまない、面倒くさがらない、ことを心がけています。
9.アパレル産業の抱える問題
アパレルブランドとして事業が軌道に乗り出したころ、始めたときにはほとんど知らなかった、ファッション業界の問題にぶつかりました。「大量生産・大量廃棄」の問題です。新しいデザインの洋服を次から次へと、大量に、安く販売し、売れ残れば新品のまま捨てる、というサイクルによって、資源やエネルギーの無駄づかい、化学薬品による水質汚染など、自然環境に悪い影響をおよぼしているのです。また、廃棄された衣類は、途上国へ流れていきます。安価な値段で売られるので、もともと途上国で国内向けに布を売ったり、服を作ったりしていた人々の商品が売れず、収入を失うという問題もあります。
私たちの商品に使っているアフリカンプリントにも問題があることを知りました。海外で、柄を違法にコピーして大量に生産された布が、アフリカで安く流通しているのです。現在は、どこでどのように作られたかわからない布をなるべく使わず、ウガンダから飛行機で10 時間以上かかるガーナの工場でつくられた布を仕入れるようにしています。
一方で、このような商品づくりを実践するにはコストがかかります。お客様が受け入れてくれる価格を維持することも重要です。一度で全てを正しくすることは難しくても、少しずつでも変えていこうと模索する不断の努力が大切だと考えています。
10.NEW HORIZONで学ぶ皆さんへ ―マイノリティになる場所に身を置いてみよう
中高生のみなさんとお会いするときにはいつも、「自分がマイノリティになる場所に身を置いてみる、そんな経験をしてみてはいかがでしょうか」と話しています。
NGOの駐在ではじめてウガンダに行ったとき、日本人は私1人、まわりは30人のウガンダ人、という環境で働き、「こんなにも自分の意見が通らないものか」と感じました。お客様あつかいをされてまともに取り合ってもらえなかったり、アジア人女性は下に見られるという現実に直面したり。いらいらしたり悲しいと感じたりすることがたくさんありました。
「日本にも、ウガンダでの自分と同じことを感じている人々がいる」と思うと、ずっと暮らしてきた日本もそれまでとは違って見えました。差別や偏見に苦しむ人がいることはもちろん知っていました。それでも、情報として知っていることと実際に経験することとでは、全く違うと感じています。
立場の弱い人の声に気がつくこと、それが社会を変える第1歩だと思っています。どんな場所でもよいので、自分が「アウェー」になる場所に身を置いてみる。もしそのような機会があれば、そのときにどんなことを感じたか、考えたかを大切にしてほしいと思います。
もっと仲本さんについて知りたい人は…
◯ウェブサイト
RICCI EVERYDAY 公式ウェブサイト
https://www.riccieveryday.com/
仲本千津のあたまの中(仲本さんのブログ)
◯著書
江口絵理『アフリカで、バッグの会社はじめました 寄り道多め、仲本千津の進んできた道』さ・え・ら書房
https://saela.co.jp/africadebag/
NHK「世界はほしいモノにあふれてる」制作班『世界はもっと!ほしいモノにあふれてる3~これからも海を越えて仕事する!』KADOKAWA
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